七輪お姉さん

日々のつぶやき

今更でしかないことなのに

車の中でね。
泣いたんです。
泣きながら、声を出して、お父さんに話しかけていたんです。


お父さんの病気はね。
頭の病気だったんだよ。
頭はね、監督だから。
監督が仕事しなくなったら現場はえらいことになるでしょ。
お父さんはずっと、大変だったんだよ。
体のあちこちが、お父さんの言うことをきかなくなっていたから。
だからね。
お父さんと同じ病気の人達は、みんな、みんなね、全部わかんなくなってから死ぬの。
なんにもできなくなって、なんにもわからなくなって、静かに寝たまんま最後になるの。
でも、お父さんはあんなに強くわたしの手を握って、ベットから起き上がって立ってこようとしたじゃない。
最後までわたしのことを覚えてた。
まだ、お父さんがまだ、死なないと思ってた!
あの時はまだお父さんは死なないと思ってた!
ごめんなさい。
お父さんがもうあの日死ぬってわかってたら、家に連れてきてあげたのに!
ごめんね、ごめんね、お父さん、まだ死なないと思ってた。
帰りたかったのがわかってたら、死ぬってわかってたら、最後は一緒にいてあげたのに。
あんなに小さく、痩せて、36kgなんて軽い、子供みたいな体になっても生きようとしてたんだね。
わたしと一緒に家に帰るのを待っていたんだね。
ごめんね。お父さん、ごめんね。帰りたかったのに。
お父さんは、最後まで、強かったよ。頑張っていたんだよ。
もう、心配しないで、わたしのことを心配しないで、今度は幸せになるんだよ。


一緒に遊んだオセロ、ドミノ、トランプ、碁、花札。
「また一緒に、あれ、あれするべ」と甘えたお父さんの笑顔。
大好きなシモネタを演じてあげると涙が出るまで笑ったお父さんの笑顔。