七輪お姉さん

日々のつぶやき

最後が覗き見えるように

父はもう何も食べることができなくなりました。
水分も難しくなりました。
声はかすれて、とてもか細く、小さく、弱く。


それでも私が眠剤を飲ませてあげて、側についている時には、父は私に感謝の気持ちを話します。「おまえのおかげで生きてこれた、きっとまた保ち直せると思う」と話して、「また一緒に、あれ、しよう」とにっこり笑おうとしてオセロのことを言ってました。


表情はもう、ほんの少しだけしか動きません。
父は、やっと話してくれています。
時々、私のことをわからなくなります。
「あれ、おまえ・・・おまえは・・・」
私は笑って「さ・ゆ! 娘のさゆだよ^ ^」と言い、
父は「おお、そうだ、そうだな」と繰り返しています。
父に「でもね、父さん。すごいと思うよ」
父は「なにが?」
父に「お父さんはね、アルツハイマーっていう病気なの。おんなじ病気の人達はね、もうじきもう仏さまになります、長くありません、て頃になるとね、なんにもわからなくなる、なんにも話すこともできなくなる、紙おむつになって、寝たきりで、なんにももうできないようになってから仏さまになるんだって。でもね、父さんは話してくれてるから。紙おむつもしないでいるから。なんにも食べれなくなって、眠れなくなって、つらいだろうに、がんばってるもん。誰にもできないことを成し遂げていると思うよ!」と父の膝を撫でながら話しました。


父は「また、今夜も仏さんが部屋さくるんだかなぁ」と部屋を見回してました。


10分くらいして、父をベットに寝かせてあげました。
父は体を横たわらせると、すぐに楽になったように、すやすやと眠りました。
私は「今日もがんばったね、おつかれさま、父さんは可愛いね」と言いながら頭を撫でてあげてから部屋を出てきました。


私も父も、今は穏やかな気持ちですが。
父が眠りに着いた後は、私は泣くのかもしれないですね。
今でも、最後の時を思ったり、嚥下障害で苦しそうな父を見ていると悲しくなります。
父の、子供のように無邪気な、そして痩せ果てた顔と体を見つめている時にも泣きそうになるときがあります。


アルツハイマーという病気は憎いですが。
けれど、父を、普通の寿命のような、穏やかな最後を与えてくれるのなら憎しみを忘れることができそうです。