たったひとつのこと
私が願っていることは、たったひとつだけです。
父が穏やかな気持ちで天国へと旅立っていけますように。
今日も私は泣きました。
顔が痛くなるくらい泣きました。
父は私の手を握って放したがりませんでした。
「俺にはおまえしか頼れる人がいないから、お前の言うことはなんでもきく、お前を泣かせるようなことはしないから。」
そしてずっと喋り続けていました。
父にはいつもいろんなものが、いろんな記憶が、見えているのでしょう。
父の話すことが、父に見えている記憶達が壊れて消えていくこと。
心の中がからっぽになった時の父の寂しさや不安を。
私は父を守ってあげたいです。
色々なことがありました。
普通の家庭というものなど、そんなものはテレビの中にしかないものではないのでしょうか。それぞれの家庭に普通ではないことがあるのではないでしょうか。
私は何度か死にかけた子供でした。育児放棄の親と、複雑な育ての親の間で。
幼い頃から両親の中は悪く。
私は幼い時から家事をすべてしながら、妹以外への感情を殺してなくして生きていました。
それでも。
私は父に、この世界で父にしかできなかった、私に命をくれたことに、とても大きな感謝を感じます。
お父さんがいなかったら、私は生まれなかった。
きっと生まれてきてから死ぬまでの間の、何よりも大きなプレゼントなのだと思っています。
どうか、お父さんを安らかな場所に迎えてください。
心の優しい、弱い、不器用なさみしがりやの父です。
安らかな場所にお迎えください。
涙が溢れます。
どうしても、止まりません。
父の為に、家の中のあちこちを毎日消毒しています。
清潔にしていてあげないと、心配なのです。
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